一遺伝子一酵素説 アカパンカビを使ったビードルとテータムの実験

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遺伝子の発現に関して、アカパンカビを使った有名な実験があります。アメリカの生物学者、ビードルとテータムの実験です。1つの遺伝子が1つの酵素合成を支配しているという一遺伝子位置酵素説を証明しました。

一遺伝子一酵素説

ビードルテータムが身近にあるアカパンカビを使った実験で導き出したもので、X線を照射するなどして特定の遺伝子に変異を起こさせると、それから発現する酵素が正常に合成されなくなり、その酵素を必要とする特定の反応が起こらなくなります。

これは、1つの遺伝子が1つの酵素合成を支配していることを意味しており、生じた酵素のはたらきにより、特定の形質が発現すると考えました。このような考え方を一遺伝子一酵素説といいます。

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アカパンカビの実験

アカパンカビは、日本ではあまりなじみがないカビですが、ヨーロッパなどの気候ではよく発生するカビです。昔からパンに赤いカビが発生しており、なじみの深い子のう菌に属するカビの一種です。そのため、古くから遺伝学の研究に利用されてきました。

アカパンカビは身近にあることだけではなく、人工培養が簡単であること、単相(n)なのでX線を照射して突然変異を誘発すると、その変化が表現型に表れる可能性が高いなどの理由があるため、研究によく用いられます。

野生型(通常)のアカパンカビは、糖、無機塩類、ビオチンというビタミンの一種だけの単純な栄養を含む培地、最少培地で生育できます。生命活動に必要なアミノ酸などは、この最少培地中の栄養だけで、自ら合成することができます。つまり、野生型のアカパンカビは最少培地で十分に生育できるのです。

このアカパンカビにX線を照射して、突然変異を生じさせ、遺伝子がどのようなはたらきを行っているのかを実験したのがビードルテータムです。

ビードルとテータムの実験

ビードルとテータムは、アカパンカビの分生胞子にX線を照射し、突然変異を誘発させ、すべての栄養分が含まれる完全培地では生育できるが、最少培地では生育できない栄養要求性突然変異株を生じさます。

栄養要求性突然変異株の中でも、最少培地に天然に存在するアミノ酸のひとつアルギニンを添加すると生育できるアルギニン要求株を選び、さらにアルギニン合成の前駆物質であるオルニチンシトルリンを添加して生育の有無を調べる実験を行いました。

生育のための最低限の栄養(前駆物質)を含む最少培地と、最少培地にそれぞれオルニチン、シトルリン、アルギニンを入れた培地を用意し、各培地で栄養要求性突然変異株である変異株A~Bが生育するか調べます。表中の+は生育した、-は生育しなかったことを表しています。

最少培地 オルニチン入り シトルリン入り アルギニン入り
変異株A
変異株B
変異株C

アルギニンの合成経路

アカパンカビの生育にはアルギニンが必要です。アルギニンの合成経路は次のようになります。

前駆物質
⇩←酵素1
オルニチン
⇩←酵素2
シトルリン
⇩←酵素3
アルギニン

特定の遺伝子がX線によって破壊され酵素1が作れなくなった変異株は、前駆物質をオルニチンに合成することができません。酵素2や酵素3は作れるので、オルニチンを培地に入れることでアルギニンを合成でき生育することができます。もちろんシトルリンやアルギニンを入れても生育できます。

特定の遺伝子が破壊され酵素2が作れなくなった変異株は、オルニチンをシトルリンに合成することができません。したがって、前駆物質やオルニチンを入れてもアルギニンが合成できず生育できません。しかし、酵素3は作れるので、シトルリンを培地に入れることでアルギニンを合成でき生育することができます。もちろんアルギニンを入れても生育できます。

特定の遺伝子が破壊され酵素3が作れなくなった変異株は、シトルリンをアルギニンに合成することができません。したがって、前駆物質やオルニチン、シトルリンを入れてもアルギニンが合成できず生育できません。アルギニンを培地に入れないと生育できない変異株になります。

実験結果から分かること

変異株Aは、最少培地では生育できませんが、オルニチンを培地に入れればアルギニンを合成でき生育できます。つまり、変異株Aは前駆物質をオルニチンに合成する酵素1をつくりだせない変異株なのです。

前駆物質×オルニチン→→シトルリン→→アルギニン

変異株Bは、最少培地とオルニチン入りの培地では生育できませんが、シトルリンを培地に入れれアルギニンを合成でき生育できます。つまり、変異株Bはオルニチンをシトルリンに合成する酵素2をつくりだせない変異株なのです。

前駆物質→→オルニチン×シトルリン→→アルギニン

変異株Cは、最少培地でもオルニチン入りの培地でも、シトルリン入りの培地でも生育できません。つまり、変異株Cはシトルリンをアルギニンに合成する酵素3をつくりだせない変異株になります。

前駆物質→→オルニチン→→シトルリン×アルギニン

  • 変異株A→酵素1をつくりだせない
  • 変異株B→酵素2をつくりだせない
  • 変異株C→酵素3をつくりだせない

つまり、1つの遺伝子に突然変異を起こすと、1つの酵素がはたらかなくなります。結論として、1つの遺伝子は1つの酵素をつくるために必要であることがこの実験からわかります。

一遺伝子一酵素説で説明できる症例

アカパンカビの実験以外にも、フェニルケトン尿症アルカプトン尿症アルビノ(白子)などの症例も一遺伝子一酵素説で説明ができます。どれも1つの遺伝子の欠陥により、1つの酵素が正常に合成されずに起こる症状になります。

フェニケトン尿症

体内にフェニルアラニンというアミノ酸が取りこまれると、フェニルアラニンヒドロキシラーゼという酵素のはたらきでチロシンにつくりかえられます。しかし、この酵素が正常につくりだせない場合、別の酵素であるフェニルアラニントランスアミナーゼのはたらきにより、フェニルアラニンはフェニルピルビン酸などのフェニルケトンになります。

フェニルケトンは、乳幼児などの大脳に蓄積してしまうと、大脳の神経細胞が正常に成長できず、精神遅滞を引き起こします。また、体内に蓄積したフェニルケトンが尿中に排出されるので、フェニルケトン尿症と呼ばれます。

アルカプトン尿症

チロシンが代謝によって分解されると、アルカプトンという物質がつくりだされます。このアルカプトンは、酵素であるホモゲンンチジン酸オキシゲナーゼによって分解され、最終的に二酸化炭素になります。

しかし、この酵素に異常がある場合、アルカプトンが分解できず体内に蓄積してしまい、蓄積した一部のアルカプトンが尿中に排出されます。アルカプトンは空気に触れると黒色の物質に変化するため、尿が黒色になります。これがアルカプトン尿症(黒尿症)です。

フェニルケトン尿症のように、知能障害は生じませんが、軟骨などに色素が沈着したり、関節がおかされたりもします。

アルビノ(白子)

フェニルアラニンが代謝によって分解されるとチロシンが生じます。チロシンは、チロシナーゼという酵素によって、最終的にメラニンという色素に変化します。

しかし、この酵素に異常がある場合メラニンが合成されず、毛や皮ふなどが白くなるアルビノ(白子)になってしまします。メラニンがつくりだせない場合、紫外線から身体を守るはたらきが弱くなり、皮膚がんのリスクが高まります。

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