生物がもつ免疫システムを応用した医療行為が行われています。高校生物基礎では、その中でも初歩的な予防接種と血清療法について学習します。それぞれのポイントをしっかりと押さえていきましょう。
予防接種
みなさん予防接種は受けたことがありますよね。インフルエンザや日本脳炎、結核菌に対するBCGなどの予防接種などが有名ですね。予防接種は、弱毒化・無毒化した病原体であるワクチンを接種して、獲得免疫の二次応答を利用して病気を予防する医療行為になります。ワクチン接種と呼ばれたりもします。
ワクチンを接種し免疫記憶が成立するまでは効果が出ません(即効性がない)が、免疫記憶が成立すると効果が長期間持続することが特徴です。ワクチンには、抗原の断片などの無毒化した不活性ワクチンと、弱毒化した生ワクチンがあることも覚えておきましょう。
予防接種により病気が予防される仕組み
- 弱毒化・無毒化した病原体であるワクチンを事前に接種する。
- 体内ではワクチン(抗原)に対して、抗体や免疫記憶細胞が作られる。
- 同じ病原体に感染したとき二次応答が起こるので、発病しないか症状が軽くなる。
インフルエンザワクチン
私たちにとって最も身近なワクチンは、インフルエンザワクチンではないでしょうか。特に受験生はインフルエンザワクチンを接種し、インフルエンザを発症しないようにしますよね。
実は、このインフルエンザワクチンは、鶏卵の中で増殖したウイルスを無毒化することによって作られています。また、インフルエンザウイルスは、豚やニワトリなどの遺伝子が混合し変異することもありますので、毎年、翌年に流行する型が予測され、それに基づいてワクチンが製造されています。
ワクチンの開発
ワクチンは、いつ頃から使われるようになったのでしょうか。初めてワクチン接種を行ったのは、イギリスの医師であるジェンナーで、当時流行していた天然痘の予防に尽力された方です。牛痘に感染したヒトが、天然痘に感染しない、感染しても症状が軽くて済むことに着目してワクチンの開発が行われました。
- 牛痘にかかったヒトは天然痘に感染しない(感染しても軽度で済む)。
- 牛痘に感染させることで天然痘を予防できる。
- ヒトに牛痘の膿を接種させた後に、天然痘の膿を接種させる。
- 症状が現れなかった。これが予防接種の始まり。
この後、フランスのパスツールにより、病原体を培養し、弱毒化させる方法が確立されたため、さまざまな感染症に対するワクチンが作られるようになり、医療行為として確立されました。
血清療法
ウマなどの他の動物に抗体をつくらせて、ヒトにその抗体を含んでいる血清を注射して体内に入った抗原を不活性化する医療行為が血清療法になります。ヘビ毒やジフテリア、破傷風などに対する血清療法が有名です。
自身で抗体を産生せず異物を排除できるので即効性がありますが、持続性はありません。また、投与された血清に含まれる抗体は非自己物質ですので、この抗体に対する免疫記憶が形成され、同じ動物の血清を複数回使用すると、投与された抗体に対して激しい二次応答が起こってしまいます。
血清が投与されるまで
- ウマなどの動物に弱毒化した抗原を注射する。
- 抗原を注射された動物は、それに対する抗体をつくる。
- 抗体をつくった動物の血清を血液から分離する。
- 毒ヘビにかまれるなどした患者に血清を投与する。
血清療法の開発
血清療法は、ドイツのベーリングと日本の北里柴三郎の功績により確立されました。北里柴三郎は、破傷風に対する血清療法を確立しています。
破傷風とは、土壌中に棲息する嫌気性の細菌で、傷口から体内に侵入することで感染を起こします。死亡率は50%と高く、当時非常に問題となっていた症状です。
- 破傷風菌が放出する毒素を、少しずつ何度もマウスに注射する。
- 毒素を注射しても死なないマウスから採血し、血清成分を分離する。
- 血清成分を他のマウスに注射すると、破傷風菌の毒素を注射しても破傷風にならなかった。
- 血清中に破傷風の毒素に対する抗体が形成されていた。
また、この血清療法の確立により、北里柴三郎は体液性免疫の本体である抗体も発見しています。
このように、免疫システムを上手く活用した医療行為を確立し、さまざまな病気や感染症に対応してきたのですね。
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