大学受験や模試、定期試験で出題されやすい内容を丁寧に解説していきます。今回はDNAの複製についてです。DNAの複製では、新しくできるDNA鎖の伸長の方向が重要になってきます。また、複製起点とレプリコン、細胞の寿命を決めるテロメア、半保存的複製と保存的複製、分散的複製の違いまで見ていきます。
DNAの複製方法
DNAは二重らせん構造になっており、DNAを複製するにはまず、二重らせん構造をほどき、水素結合で対になっている塩基をDNAヘリカーゼという酵素でほどいていくことになります。
ほどけた両方のDNAを鋳型として、各塩基に相補的な塩基をもったヌクレオチドがDNAポリメラーゼによって結合されていきます。
半保存的複製
新しくできたDNA鎖のうち1本が鋳型になった元のDNA鎖で、もう1本が新しくつくられたDNA鎖になります。このように1本だけが新しいDNAで、もう1本が元のDNAのような複製の方法を半保存的複製と呼びます。
DNAの複製方法が、半保存的複製であるということは、メセルソンとスタールの実験で証明されています。以下の記事を参考にしてください。
DNA複製の方向
DNA複製の方向が非常に重要です。DNAが複製されるためには必ずプライマーとよばれる短いヌクレオチド鎖が必要になります。プライマーは元のヌクレオチド鎖の3’末端側に結合し、元のヌクレオチド鎖の5’末端側に向かって伸びていきます。したがって、新しいヌクレオチド鎖は5’から3’の方向に伸長していくことになります。
このとき、連続的に複製が行われる鎖と、不連続に複製が行われる鎖ができます。連続的に複製が行われる鎖をリーディング鎖、不連続に複製が行われる鎖をラギング鎖といいます。
●リーディング鎖の伸長
リーディング鎖は、元のヌクレオチド鎖の3’末端側から5’末端側に向けて連続的にできる新しいヌクレオチド鎖になります。つまり、リーディング鎖そのものは5’末端側から3’末端側に伸長します。
- 二重らせん構造のDNA鎖が、DNAヘリカーゼによって一本鎖にほどかれる。
- ほどけたヌクレオチド鎖の3’末端側にプライマーが結合する。
- 二重らせん構造が開く方向に新しいDNA鎖を5’側から3’側に合成する。
●ラギング鎖の伸長
ラギング鎖は、元のヌクレオチド鎖の5’末端側から3’末端側に向けてできる新しい短いヌクレオチド鎖になります。二重らせん構造がほどける方向と、新しいヌクレオチド鎖が伸びる方向が逆向きなので、断続的に鎖が伸びていきます。断続的にできた短いヌクレオチド鎖を岡崎フラグメントといい、この後DNAリガーゼによって結合し、1本の新生鎖となります。
- 二重らせん構造のDNA鎖が、DNAヘリカーゼによって一本鎖にほどかれる。
- ある程度ほどけたところの3’末端側にプライマーが結合する。
- 新しいDNA鎖を5’側から3’側に合成する。
- 二重らせん構造がさらに開いているので、そこに新しいプライマーが結合する。
- 新しいDNA鎖を5’側から3’側に合成する。
- 短いヌクレオチド鎖が多数できる(岡崎フラグメント)。
- 短いヌクレオチド鎖がDNAリガーゼによって結合する。
次は、DNAの複製の中でも応用論点の「複製起点」に関する内容です。レプリコンでの複製の方向が非常に重要です。
複製起点とレプリコン
DNAの複製は、元の鋳型となるヌクレオチド鎖の3’末端側から5’末端側に向かって新しいヌクレオチド鎖が相補的に結合していきました。この複製が始まる部分を複製起点といい、複製起点とその周辺をレプリケーターといいます。
真核生物のDNAは非常に長いので、1染色体当たりの複製起点が多数存在し、同時にDNAの複製が数百か所で行われていきます。
1つの複製起点から複製される範囲をレプリコンといい、このレプリコンで複製が同時進行で行われることで、非常に長いDNAでも速やかに複製を完了させることができるようになっています。
レプリコンでの複製の方向
レプリコンでのDNAの複製は、複製起点から両方向に複製が始まることが特徴になります。複製起点から元のヌクレオチド鎖の5’末端側に向けてリーディング鎖が伸長します。このとき複製起点にプライマリーが結合し、新生鎖は5’末端から3’末端に向けて連続的に伸長していきます。
元のヌクレオチド鎖の3’末端側にはラギング鎖が断続的に、元のDNA鎖が開くたびにプライマリーが結合し短い新しいヌクレオチド鎖がである岡崎フラグメントが出現します。それらはDNAリガーゼによって結合していきます。
真核生物のDNAの複製が速やかに完了する理由
真核生物のDNAは非常に長く、一カ所だけで複製が行われても長い時間が必要になります。このような事態にならないように、真核生物のDNAの複製は、DNAのいたるところに複製起点が出現し、同時進行的にレプリカンごとに複製が行われます。そのため長いDNAを持っていても短時間に速やかに複製が完了するのです。
複製起点の確認問題
- DNAの複製が始まる場所を何というか。
- 複製起点の周辺の領域を何というか。
- 1つの複製起点から複製される範囲を何というか。
- 複製起点を境にプライマーが存在するのは、元のヌクレオチド鎖の5’末端側と3’末端側のどちらか。
- 複製起点から5’末端側に伸びる新生鎖の名称は何か。
- 真核生物のDNAの複製が速やかに終わる理由を答えよ。
解答
- 複製起点
- レプリケーター
- レプリコン
- 3’末端側
- リーディング鎖
- 多くの複製起点からレプリコンごとに同時に複製が進行するため。
次は、テロメアについて学習します。生物の寿命と関係がある非常に興味深い分野になります。
テロメアとは
DNAの複製の際に、複製の起点となる部分に最初に結合するのがプライマーでしたね。プライマーにはDNAプライマーとRNAプライマーがありますが、DNAの複製時にはRNAプライマーが複製起点に結合することになります。
このプライマーが結合し、そこにDNAポリメラーゼによって相補的な塩基対になるように新しいヌクレオチド鎖が結合していきます。そして、最終的にプライマー部分は分解されてDNAに置き換えられることになりますが、5’末端の一番端のプライマーだけはDNAに置き換えられず分解されてしまいます。その結果、元のヌクレオチド鎖である鋳型鎖よりも新生鎖は短くなるのです。
この5´末端側のRNAプライマーが分解されてしまい、短くなる部分を「テロメア」といいます。
テロメアが細胞の老化や寿命に関係
哺乳類の場合テロメア部分の塩基配列はTTAGGGという、特定の塩基配列の繰り返し部分になっています。この部分がDNAの複製の度に短くなり、一定以下の長さになると細胞分裂が停止してしまうようになります。
このことが細胞の老化や寿命に関係しているのではないかと考えられているのです。
テロメラーゼ!テロメアを伸長させる酵素
細胞の寿命に完成するテロメア部分を伸長させる酵素「テロメーラーゼ」なるものがあります。通常の体を構成する細胞では発見されていませんが、生殖細胞やがん細胞などで、このテロメラーゼという酵素が発見されています。
テロメラーゼによって、細胞の寿命が無くなりますので、がん細胞は無限に細胞分裂を繰り返すのです。
最後に、半保存的複製と保存的複製、分散的複製の違いを見ていきましょう。
半保存・保存・分散的複製の違い
遺伝子の本体であるDNAは、ワトソンとクリックによって二重らせん構造になっていることが判明しました。このDNAがどのように複製されているのかに関して、次の3つのDNAの複製方法が予想されました。
- 半保存的複製
- 保存的複製
- 分散的複製
この予想を実験的に証明し、DNAの複製では半保存的複製になると証明したのが、アメリカの生物学者であるメセルソンとスタールです。
今回は、予想された3つの仮説、半保存的複製、保存的複製、分散的複製の違いについて説明します。
半保存的複製
もとのDNAを構成する2本のヌクレオチド鎖がそれぞれ鋳型鎖となり、新たなDNA鎖が合成される複製の方法を、半保存的複製といいます。新たに構成されたDNAの2本鎖のうち1本は親からそのまま受け継いだものになるので、DNAの半分がそのまま保存されることになります。
DNAの複製方法が半保存的複製であることを証明したのがメセルソンとスタールです。
保存的複製
もとのDNAを構成する2本のヌクレオチド鎖がそのまま残り、これとは別に新たなDNA2本鎖が複製される方法を保存的複製といいます。親から受け継いだDNA2本鎖がそのまま残るので、保存的複製といわれます。
メセルソンとスタールの実験で、DNAの複製方法が保存的複製ではないことが証明されました。
分散的複製(不連続的複製)
もとのDNAを構成する2本鎖が細かい断片になり、それを補うように新しいヌクレオチドが結合しDNAが複製される方法を、分散的複製または、不連続的複製といいます。複製されたDNAは、一部が古いDNA鎖部分、一部が新しいDNA鎖部分となります。
メセルソンとスタールの実験で、DNAの複製方法が分散的複製(不連続的複製)ではないことが証明されました。
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