高校生物の動物の行動を学習します。動物の行動には生まれたときから持っている生得的行動と、生まれた後の経験によって獲得する学習による行動があります。この2つの行動を区別できるようになることが今回の目標です。
動物の行動の種類
動物の行動には、学習や経験がなくても生じる「生得的行動」と、生まれた後の学習や経験によって獲得する「学習による行動」の2種類があります。
生得的行動
生まれながら備わっている生得的行動が起こるためには、かぎ刺激(信号刺激・サイン刺激)とよばれる刺激が必要になります。このかぎ刺激によって、生物は多くの走性や反射が組み合わさって、複雑な行動を生得的に起こすことができるのです。
生得的行動には、個体や種の維持のために行う本能行動、動物が、太陽や星、化学物質などを目印として、特定の方向を定める定位行動、同じ種類の個体どうしにおける情報のやりとりであるコミュニケーション(個体間情報伝達)などが存在します。
具体的には次のような生得的行動があります。
- 走性(正の走性・負の走性)
- イトヨのジグザグダンス
- ミツバチの8の字ダンス
- 太陽コンパス
- フェロモン
走性
走性とは、与えられた刺激に対して一定の方向に移動することをいいます。その刺激に対して近づく場合は「正の走性」、逆に遠ざかる場合は「負の走性」といいます。
例えば、夜になると明かりに向かってガなどの虫が寄ってくるのも走性の一種です。走性のもととなる刺激によって、光走性、化学走性、重力走性、流れ走性、電気走性、接触走性などがあります。
走性の種類 | 刺激 | 正の走性 | 負の走性 |
光走性 | 光 | ガ、ミドリムシ | ミミズ、ゴキブリ |
化学走性 | 化学物質 | ハエ、カ | ゾウリムシ |
重力走性 | 重力 | ミミズ、ハマグリ | ゾウリムシ、マイマイ |
流れ走性 | 水の流れ | メダカ、サケ(産卵期) | サケ(成長期) |
接触走性 | 接触 | ゴカイ、イトミミズ | ミドリムシ |
電気走性 | 電流 | ミミズ、ヒトデ | ゾウリムシ |
ゾウリムシの化学走性は、弱酸に対しては正の走性を示し、強酸に対しては負の走性を示します。また、産卵期のサケは、川を遡上するので流れに対して正の走性、成長期のサケは川を下り海に出るので負の走性となります。
また、方向性は持ちませんが、プラナリアは明所では活発に行動しますが、暗所では動きが鈍くなるという性質があります。この結果、プラナリアは暗所に集まることになります。これも方向性はありませんが、結果として光走性の一種と捉えられています。
イトヨのジグザグダンス
魚類のイトヨの雌は、繁殖期になると卵を腹の中に持つため、お腹が大きく膨らみます。これがかぎ刺激となり、イトヨの配偶行動が発生します。
イトヨの雄は、腹部が膨れている雌に対してジグザグダンスを行います。このジグザグダンスがかぎ刺激となり、つられて雌が雄についていきます。雄は雌を巣に誘導し、雌はそこで産卵します。産卵が合わると雄は卵に精子をかけます。
イトヨのジグザグダンスは、1951年にティンバーゲンによって解明されました。
イトヨには、ジグザグダンスの他にも、攻撃行動が生得的行動として有名です。イトヨの雄は、繁殖期になると腹部が赤くなります。これは婚姻色といわれ、攻撃行動のかぎ刺激になります。この時期は縄張りを形成するので、自分の縄張りに腹部の赤い他の雄が侵入すると攻撃するのです。
ミツバチの8の字ダンス
ミツバチは、エサ場を見つけると8の字ダンスでエサ場の方角や距離をなかまに伝えます。エサ場を見つけたはたらきバチは、巣に変えると巣箱の中でダンスを踊ります。この動きが8の字を描くように見えるので、「8の字ダンス」という名前が付けられました。
8の字ダンスでは、ダンスの中心を巣箱とみなして、重力と反対の方向を太陽の方向、尻振りしながら前進していく方向をエサ場の方向を表します。
また、ダンスの回転速度はエサ場までの距離を示し、距離が近いほどダンスが速くなり、遠い場合はゆっくりとダンスを踊ります。非常にエサ場が遠い場合は、8の字ダンスではなく円形ダンスを踊ることも覚えておきましょう。
太陽コンパス
渡り鳥はどのように方位を感知し、長い旅を行っているのかというと、太陽コンパスという、太陽の位置を基準にして方向を感知しています。8の字ダンスを踊るミツバチも、ホシムクドリなどの渡り鳥にも備わっている生得的行動になります。
渡り鳥であるホシムクドリは、渡りの時期になると一定の方向を向いて飛び立ちます。太陽の光の方向を鏡を使ってずらしてみると、飛び立つ方向も太陽の光をずらした分だけずれます。このことから、ホシムクドリは太陽の方向を基準に、飛び立つ方向を決めていることがわかります。
また、夜間は星や星座の位置を基準に飛ぶ方向を決める鳥(星座コンパス)や、地球の地磁気を基準に飛ぶ方向を決めている鳥(地磁気コンパス)もいます。
フェロモン
コミュニケーション(個体間情報伝達)として、動物が出すフェロモンも有名です。フェロモンは、動物が外分泌腺から体外に分泌し、同じ種類の他個体に作用する外分泌物質になります。
アリが迷わず巣に戻ったり、エサ場までの道のりを間違えないのも、アリがフェロモンを分泌しているからです。このフェロモンを道しるべフェロモンといいます。
この他にも、異性を誘引する性フェロモン、ゴキブリなどがなかまを集合させる集合フェロモン、アブラムシなどがなかまに危険を知らせる警戒フェロモン、女王バチが分泌する階級維持フェロモン(女王物質)などがあります。
学習による行動
生まれた後の学習や経験によって獲得する行動様式が学習による行動です。学習による行動には次のようなものがあります。
- 慣れ
- 刷込み
- 鋭敏化
- 条件反射(古典的条件づけ)
- 試行錯誤(オペラント条件づけ)
- 知能行動
慣れ
慣れとは、その名の通り刺激に慣れるという学習による行動です。同じ刺激を何度も繰り返し受けることで、反応が小さくなったり、反応が無くなったりことがあります。これが慣れです。
なぜ慣れが起こるかというと、受容細胞の閾値が上昇したり、神経伝達物質の分泌量が減少するなどさまざまです。
有名なのはアメフラシの水管に刺激を与え続けると、最初はエラを引っ込める反応を起こしますが、しだいに反応が小さくなります。しかし、別の部位に刺激を与えて、再び水管に刺激を与えると、エラを引っ込めるという反応が回復します。
これは、感覚ニューロンの末端でシナプス小胞が減少したり、カルシウムチャネルの不活性化が原因であることがわかっています。
刷込み
カモやアヒルなどの水鳥のひなは、孵化後に初めて見た動くものを、それが実際の親でなくとも親とみなし、後追い行動を起こします。このように、生後すぐの特定時期に、特定の行動を学習することで、その後の行動が決定することを刷込み(インプリンティング)といいます。
一度学習が成立すると、基本的には変更が不可能になることも特徴です。これは、オーストラリアの動物学者ローレンツによって発見されました。
サケが、成魚になり産卵期になると母川に戻れるのは、孵化後に川のにおいを学習しているからです。これも刷込みの一種になります。
鋭敏化
アメフラシの水管に同じ刺激を与え続けると、反応が鈍くなる行動を慣れといいましたが、慣れを起こしている個体に対して、別の刺激を与えることで反応が回復することがあります。これを脱慣れといいます。
このとき、与える別の刺激を強くすると、慣れを起こす前の状態よりも弱い刺激に対して反応するようになることがあり、これを鋭敏化といいます。
これは、シナプス末端から放出される神経伝達物質の量が増加することで起こることがわかっています。
条件反射(古典的条件づけ)
パブロフのイヌで有名な学習による行動です。旧ソ連の動物学者パブロフによって発見されました。反射を引き起こす本来の刺激とは異なる刺激によって、反射が起こることを条件反射(古典的条件づけ)といいます。
食物を食べる際にだ液が出るのは、延髄による反射になります。イヌに食物を与えると、だ液を出す刺激(無条件刺激)となりだ液腺からだ液が分泌されます。食物を与える前にベルの音を聞かせるという、だ液の分泌とは関係のない刺激(条件刺激)をくり返すと、ベルの音(条件刺激)を聞いただけでだ液が分泌されるようになります。
試行錯誤(オペラント条件づけ)
ゴールにエサがある迷路にネズミを投入すると、エサに到達するまでに何度も行き止まりに入り、ゴールに到達するまでの時間は長くかかりますが、試行をくり返すことで行き止まりに入ることが減少していきます。このように試行をくり返すことで、学習効果が現れ、目的達成までの時間が短くなることを試行錯誤(オペラント条件付け)といいます。
試行錯誤による学習効果は、罰や褒美が存在することで高まることも覚えておきましょう。
知能行動
過去の経験をもとに洞察し、未経験のことに対して目的に合った適切な行動をとる能力を知能といいます。この知能による行動を知能行動といいます。大脳皮質が発達した動物、ヒトやサルなどが行うことができます。
以上が生得的行動と学習による行動になります。どんな動物のどんな行動がどちらにあてはまるのかがわかる状態にしておきましょう。
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