無機化学では、さまざまな反応が登場します。今回は中でも、加熱による反応をまとめてみました。反応を進めるために加熱が必要な化学変化を覚えましょう。
熱分解反応
炭酸塩CO₃²⁻や炭酸水素塩HCO₃⁻、水酸化物OH⁻は、加熱により二酸化炭素CO₂や水(水蒸気)H₂Oが発生し分解反応が進みます。加熱することでCO₂やH₂Oが発生し反応するので、熱分解反応と呼ばれます。
次の3つのパターンを覚えましょう。
- 炭酸塩CO₃²⁻
- 炭酸水素塩HCO₃⁻
- 水酸化物OH⁻
炭酸塩の熱分解
炭酸塩とは、炭酸イオンCO₃²⁻を含む化合物の総称です。炭酸ナトリウムNa₂CO₃や炭酸カルシムCaCO₃などがこれにあたります。
炭酸塩を加熱すると、CO₂と酸化物ができます。
CO₃²⁻ → CO₂ + O²⁻
- CaCO₃ → CO₂ + CaO
- Na₂CO₃ → CO₂ + Na₂O
炭酸水素塩の熱分解
炭酸水素塩とは、炭酸水素イオンHCO₃⁻を含む化合物の総称です。炭酸水素アンモニウム NH₄HCO₃や炭酸水素ナトリウム NaHCO₃などがこれにあたります。
炭酸水素塩を加熱すると、CO₂とH₂Oと炭酸塩ができます。
2HCO₃⁻ → CO₂ + H₂O + CO₃²⁻
- 2NaHCO₃ → CO₂ + H₂O + Na₂CO₃
- NH₄HCO₃⁻ → CO₂ + H₂O + NH₃
水酸化物の熱分解
水酸化物とは、水酸化物イオンOH⁻を含む化合物の総称です。水酸化アルミニウムAl(OH)₃や水酸化カルシウムCa(OH)₂などがこれにあとります。
水酸化物を加熱すると、H₂Oと酸化物ができます。
2OH⁻ → H₂O + O²⁻
- 2Al(OH)₃ → 3H₂O + Al₂O₃
- Mg(OH)₂ → H₂O + MgO
揮発性酸の遊離反応
塩化水素HClのような揮発性の酸に、硫酸H₂SO₄などの不揮発性の酸を混ぜ加熱すると、揮発性のHClが蒸発し外へ逃げてしまいます。
ということは、揮発性の酸由来の塩に、不揮発性の酸を加えて加熱すると、揮発性の酸が発生します。不揮発性の酸は、硫酸H₂SO₄を覚えておけば十分です。それ以外は揮発性の酸と覚えておきましょう。
揮発性由来の塩+不揮発性の酸→不揮発性の酸由来の塩+揮発性の酸
- NaCl+H₂SO₄→NaHSO₄+HCl
- 2CH₃COONa+H₂SO₄→2CH₃COOH+Na₂SO₄
濃硫酸や固体の塩化ナトリウムを使う理由は、極力水がない状態で反応させるためです。水があると、水がH⁺を受けとってしまいCl⁻がH⁺を受けとれなくなるからです。
水和水を含む物質の加熱
結晶中に一定の割合で含まれている水は水和水または結晶水と呼ばれます。硫酸銅(Ⅱ)五水和物CuSO₄・5H₂Oやシュウ酸カルシウム一水和物CaC₂O₄・H₂Oなどがこれにあたります。
このような水和水を含む物質を加熱すると、水和水が外へ出ていく変化が起こります。最終的に無水硫酸銅CuSO₄などの無水物ができます。シュウ酸カルシウムは、水和水が全て外へ出ていくと、その後は熱分解反応が進みます。
CuSO₄・5H₂O→CuSO₄・3H₂O→CuSO₄・H₂O→CuSO₄
CaC₂O₄・H₂O→CaC₂O₄→CaCO₃→CaO
アンモニアを発生させる反応
気体のアンモニアNH₃を発生させるときにも、加熱が必要になります。アンモニアを発生させる方法は、弱塩基の遊離反応を利用します。強塩基を弱塩基の塩にぶつけることで、弱塩基のアンモニアが気体となって出てくる反応です。
弱塩基の塩+強塩基→強塩基の塩+弱塩基
塩化アンモニウムと水酸化カルシウムを混ぜて加熱
- 2NH₄Cl+Ca(OH)₂→CaCl₂+2H₂O+2NH₃
硫酸アンモニウムと水酸化ナトリウムを混ぜて加熱
- (NH₄)₂SO₄+2NaOH→Na₂SO₄+2H₂O+2NH₃
濃塩酸と酸化マンガン(Ⅳ)から塩素を発生させる反応
濃塩酸HClと酸化マンガン(Ⅳ)MnO₂混ぜ加熱することで、塩素Cl₂を発生させることができます。これは、酸化還元反応を利用した気体の発生方法です。
ハロゲン化物イオンである塩化物イオンCl⁻は相手に電子を渡す、還元剤になります。また、酸化マンガン(Ⅳ)は、酸性条件下で電子を受けとる酸化剤になります。この性質を利用して塩素Cl₂を発生させるのです。
- 2Cl⁻→Cl₂+2e⁻
- MnO₂+4H⁺+2e⁻→Mn²⁺+2H₂O
両半反応式を合わせると、
- MnO₂+4HCl→MnCl₂+Cl₂+2H₂O
となります。塩素の発生では、乾燥した塩素を得るために、実験装置についても出題されます。以上が加熱が必要な反応になります。しっかり覚えましょう。
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